歯並びが悪くなる原因は?悪化を防ぐ4つの方法-パート1-

歯並びが悪くなる原因は?悪化を防ぐ4つの方法

人は誰しも、白くてまっすぐに並んだ健康的な歯を「美しい」と思うものです。

近年、マスクをつけて過ごす時間が増えたという背景から、多くの方が「お口の健康を見直したい」と考えるようになりました。

「口臭が気になるようになった」「うがいの習慣がついて、自分の口元を気にする機会が増えた」など、きっかけはさまざまありますが、その中の一つとして「歯並びを治すチャンスだから」という声も多数見られました。

そもそも、ご自身の歯並びに対して「自信があります!」と大きな声で言える方は、決して多くはないでしょう。

実際に歯科治療における意識調査の資料を見ても、「歯並びにコンプレックスを抱いている」と答えた方の割合は8割以上。

特に若い女性ほど「自分の歯並びが悪い」「治したい」と思っている、という結果が出ています。

では、歯並びが悪くなる理由とは一体何なのでしょうか。

どうすれば歯並びが悪くなるのを防げるのでしょうか。

歯並びを改善するためには、どんな方法があるのでしょうか。

「歯並びが乱れる原因とその種類」と「予防手段や治療の方法」について、順を追って説明していきます。

ご自身の歯並びはもちろん、子どもの歯並びについて気になることがあるという親御さまにも、知っていただけたらと思います。

そもそも悪い歯並びとは何?

鏡の前でお口を開けたとき、「ああ、自分って歯並びが悪いよなぁ…」と感じる方は少なくありません。

先にも触れましたが、ご自身の歯並びにコンプレックスを抱いている人は、とても多いのです。

ただ、見た目の良し悪しには、人それぞれの価値観があります。

一概に「こうなっていると歯並びが悪い!」という線引きをすることは、なかなか難しいもの。

しかし、歯科医療の現場においては、「歯並びが悪い」にも、きちんとした分類があり、それぞれに合わせた治療方法が確立されています。

まずその分類について順番に説明をしていきましょう。

1. 歯が凸凹でバランスが悪い「叢生」

歯の大きさがアンバランスだったり、歯と歯が重なっていたりする状態を叢生(そうせい)と言います。

日本人が抱える歯並びの問題で最も多いケースが、この叢生。

叢生は、歯そのものだけの問題というよりも「顎の大きさと歯の大きさのバランスがとれていない」ことが要因となっている場合が多いです。

例えば、歯に対して顎が小さいケース。

その逆で、顎に対して歯が大きすぎるケースもあります。

現代の日本人は食生活の変化に伴い、昔の日本人よりも顎が細く小さい傾向にあります。

そのため、本来の大きさの歯が顎に収まりきれずに、ガタガタに生えてしまったり、重なって生えてきたりするのです。

2. 子どもにありがち?上と下の歯が反対の「受け口」

受け口は下顎前突、反対咬合とも言い、下の歯が上の歯よりも前に出てしまっている状態を指します。

下顎が前に突き出て「しゃくれている」状態、と言えばイメージがしやすいでしょうか。

原因として考えられるのは、遺伝によるもの、それから成長期の噛み方の習癖などが挙げられます。

大人よりもお子さまに多く見られる症例で、早い段階で治療を行うことが必要です。

3. 前歯が必要以上に突出している「上顎前突」

「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」とは、いわゆる「出っ歯」の状態を指します。

前歯や上あごが前方に出た歯並びで、海外では「ガミースマイル」などとも言われています。

(歯ぐき、歯肉を意味する英語「gum」の形容詞「gummy」が由来となっています。)

この歯並びは叢生と同様、日本人に多く見られ、単純に歯が突出しているというだけではなく、下顎の成長不足が要因となっていることも多いとされています。

見た目に目立ちやすいことはもちろんですが、お口を閉じにくいため歯周病や口臭の原因になるなど、早い段階で改善すべき歯並びと言えるでしょう。

4.歯と歯に隙間がある「空隙歯列」

「空隙歯列(くうげきしれつ)」はすきっ歯とも言い、歯と歯の間に隙間ができている状態の歯並びを指します。

原因は、顎の大きさに対して歯が小さかったり、歯の本数が少なかったり、舌で歯を押す癖によるものだったり、人によってさまざまです。

空隙歯列は乳歯の時期にもよく見られる症状ですが、お子さまの場合は特段気にする必要はありません。

永久歯列に生え変わってからも隙間が大きい場合は、お口全体の健康を守るためにも、適切な治療を考えていきましょう。

5. 噛み合わせが深い「過蓋咬合(かがいこうごう)」

「過蓋咬合(かがいこうごう)」とは奥歯を噛みしめた時、下の前歯が見えない状態を指します。

歯並びが正常な状態であれば、噛みしめた時に下の歯が4分の1ほどが隠れるのですが、それ以上に下の歯が隠れてしまうと、過蓋咬合と診断されます。

人によっては、下の前歯が上の歯の裏側の歯茎に当たってしまうケースもあります。

過蓋咬合は上顎前突症(出っ歯)や叢生との密接な関係があり、お口全体のバランスに影響を与える状態です。

また、噛み合わせが深いことで顎にも負担をかけてしまうため、顎関節症のリスクにつながります。

6. 上下の噛み合わせが悪い「交叉咬合」

お口を閉じた時に、上の歯が下の歯に被さるのが正しい状態です。

しかし、これが部分的にチグハグになっていたり、一部分だけ逆になってしまっていたりする状態を交叉咬合(こうさこうごう)と言います。

頬杖などの習癖によって引き起こされるケースや、そもそも歯がズレて生えてしまっているケースなど、人によって原因はさまざまです。

交叉咬合は、お口の中だけではなく顎に負担をかけてしまったり、お顔がゆがんでしまったり、さまざまなリスクにつながるため、しっかりと改善することが重要です。

7.前歯がしっかり噛み合わない「オープンバイト」

奥歯はしっかり噛んでいるのに、前歯が重ならずお口が開いている…。

そんな状態をオープンバイト(開咬)と言います。

幼少期の指しゃぶりや舌のクセが要因となっているケースが多いですが、骨格的な遺伝によって発症する場合もあります。

オープンバイトは前歯がしっかり噛み合わないので、前歯でものを噛むことができなかったり、発音に支障を来したり、日常生活で不便な思いをすることがあるでしょう。

8. 上下の前歯がぶつかる「切端咬合」

正常な歯並びであれば、噛んだ時の前歯は、上が下に被さる状態になるでしょう。

しかし、上顎の位置に対して下の顎が通常より前に出ていると、上下の歯先が被さり合わずにカチッと噛み合ってしまいます。この状態を、切端咬合と言います。

すべての前歯が切端咬合になるケースは少なく、多くの場合は一部の前歯のみぶつかる症例が多いですが、それによって奥歯でしっかり噛めないといった問題が生じます。

歯並びが悪くなってしまう5つの原因とは

さまざまな歯並びのタイプについて見てきましたが、ご自身に当てはまるものはありましたか?

いずれの症例も、上下の歯が正しく噛み合わず、バランスを失っている状態であることがご理解いただけたかと思います。

では次に、これらの問題が実際に「どういった理由によって引き起こされているのか」を詳しく見ていきましょう。

今回は主な要因とされる5つの要素について、ピックアップしていきます。

1. 遺伝的な要因

歯並びは、顎の大きさや歯の大きさ、頬や舌の力が大きく影響します。

そして、歯の大きさや顎の形は、両親から遺伝する要素の一つです。

叢生で悩む方のケースを例に考えてみましょう。

叢生、つまり顎に十分なスぺースがなく、永久歯がキレイに並ぶことができないから歯並びがガタガタになってしまった…。

これは後天的な問題ではなく、生まれつきの歯のサイズ、顎のサイズによって起こっていると言えますね。

また、受け口(下顎前突)や出っ歯(上顎前突)も顎の大きさや位置によって起こる症例となるため、遺伝するケースがあります。

ただし、必ずしも歯並び=「遺伝だから改善しようのないもの」ではありません。

頬や舌の使い方、噛む力は、生活習慣によって改善していくことができるのです。

2. 食べ物の変化?顎の成長が不十分

「現代人は顎が小さい」という話を聞いたことはありませんか?

これは「食生活の変化に伴い咀嚼における力のかかり方に変化が生じた」からだと考えられています。実際に、昔の日本人と現代人の顎の骨格には大きな差があります。

柔らかい食べ物ばかり選んで食べていると、顎の力は鍛えられません。

だからこそ歯科医療では「しっかりと噛んで食べましょう」と指導をされているわけですね。

しかし、断じて「食生活の変化がすべて悪い!」というお話ではありません。

顎の発育は、お口周りの筋肉を正しく使うことが大切なのです。

噛む力の衰えをはじめ、唇や頬の筋肉の使い方、舌の習癖など、さまざまな要因が絡み合って、顎の成長不足を招いているのです。

3. 生活環境による要因

現代人は多くのストレスを抱えています。

ストレスと歯並びに一体どういう関係があるんだろう?と疑問を抱く方もいらっしゃるかと思いますが、実はここにも密接な関係があります。

ストレスが溜まると、人は無意識に歯を噛みしめることがあります。

また、寝ている時の歯ぎしりも、ストレスが要因であると言われています。

噛みしめや歯ぎしり、それから無意識な口呼吸なども、歯に大きな負担をかける行為です。歯並びの乱れはもちろん、すり減った部分から新たなトラブルを招く要因にもなるので、しっかり改善していきましょう。

歯も、ストレスがかかると少しずつ疲れてしまうのです。

4. 虫歯や歯周病の状態を放置

「歯並びが悪いと虫歯や歯周病になりやすい」ということをご存じの方は多いと思いますが、実際はこの逆のパターンもあるのです。

つまり「虫歯や歯周病を放置していることが、歯並びの乱れにつながる」のです。

なぜなら、お口のトラブルで歯がグラついたり抜け落ちてしまったりすると、その部分から歯並びがどんどんズレていくからです。

特に歯周病はお口全体に影響を与えるので、要注意です。

適切な治療を受け、健康な状態を維持できるように気を付けていきましょう。

5. 悪癖による、筋肉やお口全体への負担

例えばこんなクセはありませんか?

頬杖をつく、いつも横向きやうつ伏せで寝ている。

舌で歯を押してしまう、左右片方ばかりで噛んで食べている…。

これらの習癖…あえて「悪癖」としましょう。

これらの悪癖はすべて、歯並びの乱れに直結するといっても過言ではありません。

特に頬杖や横向き、うつ伏せは、お口周りの筋肉を圧迫し、顎の骨格にも負担を与えてしまう行為です。これらの悪癖がある方は改善するように意識しましょう。

また、お子さまの場合は、併せて「指しゃぶり」や「爪噛み」といった癖にも注意することが大切です。乳歯のズレは、永久歯にも影響を及ぼしかねません。

歯並びの悪さが体に及ぼす意外な影響

歯並びの問題やその要因について理解できたところで、次は歯並びと体の関係に視点を移して考えてみましょう。

歯科医師が「歯並びの乱れは治療をしたほうがいい」と言うのは、歯並びの乱れが見た目以外にもさまざまなリスクに繋がることを知っているからです。

以下、具体的にどんなリスクがあるか説明します。

1. 虫歯や歯周病になりやすい

歯並びが乱れていると、ブラッシングがしづらくなります。

その結果、歯ブラシが行き届かなかったり汚れが蓄積したりと、虫歯や歯周病のリスクを高めてしまうことに繋がるのです。

2. ドライマウスや口臭の原因

歯並びの形によっては、お口が閉じられないというケースもあります。

そういった場合、唾液の分泌が不足してお口の中が乾燥するなど、いわゆるドライマウスという状態になる可能性があります。

ドライマウスは口臭の原因になりますので、しっかりと対策をすることが大切です。

3. 顎関節症を引き起こす恐れ

歯そのものではなく顎の位置がズレて歯並びが乱れているケースでは、顎に大きな負担がかかっていることがあります。

そうすると、顎が上手く動かせなくなり、顎関節症を発症することがあります。

4. 咀嚼機能の低下

上の歯と下の歯がきれいに噛み合っていない状態では、正しい咀嚼ができません。

その結果、お口全体の咀嚼機能が衰え、嚥下などにも支障をきたす場合があります。

5. 顔が歪みやすい

上下の噛み合わせが合っていない交叉咬合などは、お口だけでなくお顔全体のバランスを歪めてしまうことがあります。

歯のズレ、顎のズレから次第にお顔の歪みが生じるため、早い段階で改善することが重要です。

6. 頭痛や肩こり、めまいを引き起こす

歯並びが悪くて噛み合わせが悪いと、咀嚼の際に、顎は大きな負担を抱えます。

そうすると筋肉が緊張している状態が続いてしまい、血行にも影響が出てくるでしょう。その結果として、肩こりや頭痛、めまいといった症状を引き起こすことに繋がります。

7.発音への影響

歯並びが悪いと、舌や唇が正しい動きができないことがあります。

また、上下の噛み合わせがズレていたり隙間があったりすると、話す時に息が漏れて発音に支障をきたすことがあります。

8.見た目のコンプレックス…心理への影響

歯並びに大きなコンプレックスを持っている人ほど、人前に出ることを嫌がります。お口を開けて笑えない、話す時に気になってしまうなど、気持ちが消極的になってしまい、精神的な負担を抱えてしまうこともあるでしょう。

この記事のパート2では、歯並びの悪化を改善する方法を解説します。

パート2はこちら

監修者情報

医療法人隆聖会 吉見歯科グループ 理事長 吉見洋志
・医療法人隆聖会理事長・総院長
・北海道大学病院 客員臨床教授
・セブ医科大学 客員教授(フィリピン)